背中の相棒<デイダラ・トビ編> 「―――っ!」 「……………」 デイダラ・トビコンビ、まさかまさかの絶体絶命・大ピンチ!?数万〜数百万の敵に囲まれ、まさしく飛んで火にいる夏の虫。 「くっ…、こんなに囲まれるとは………」 「デ、デイダラさ〜ん…。どうしましょー?」 「うるせー、弱音を吐くんじゃねェよっ!」 半べそを掻くトビを、激しく叱咤するデイダラ。それもそのはず、この事態はトビが招いた失態だった。 「おまえが、甘い匂いをベタ付かせてやって来たのが悪いんだからなっ!オイラまで巻き込まれちまったじゃねェかよ…、うん」 「だ、だってー…」 デイダラの背後で縮こまるトビ。しかし、原因の追求をしている場合ではない。この二人を中心として、三百六十度、どこからともなく仕掛けられてもおかしくない状況なのである。 「………どうしたもんか…」 デイダラは舌打ちした。予想を遥かに超える敵の数に、動揺を隠しきれない。このままでは、二人ともあっという間に餌食にされてしまう。だが、これだけの数を相手に、得意の爆発術もどこまで効力があるのか計りえない。特殊な粘土が切れている中、飛行用の鳥が使えないのは、実に痛かった。 「デイダラさ〜ん…」 相変わらず、弱気なトビ。デイダラは、精神不安定な相棒の力に頼るのは無理だろうと悟った。ここは、自分がしっかりしなくては…!『暁』に入団したての新入りを、先輩である自分が守ってやらないといけない。 「………」 デイダラは、拳に力を入れた。緊張の汗がほとばしる。覚悟を決めた一瞬だった。 「デイダラさん…」 その先輩の様子に、トビも何らかの異変を感じた。この場を脱出するために、相棒は何か策を練っているのだろうか…? 思えば、デイダラを巻き込んでしまったのは、トビ自身の不甲斐無い行動ゆえのこと。己の甘い考えが招いた結果だった。それなのに、自分は何もできないというか、しない。美味しいところを提供してくれるのに、いつも先輩であるデイダラに頼っている。 「……………」 トビは考えていた。いずれにせよ、このままでは、二人の命運はない。デイダラの対策に、少しでも力になれやしないだろうか? 「オ、オレも、デイダラ先輩にっ…!」 「―――うん?何か言ったか…?」 デイダラは振り向かなかった。否、振り向く余裕がなかった。トビが何かを言いかけたが、聞き取れないでいた。否、聞き取れなかったのは、声の主が言葉を止めたからだ。 「……………」 トビは、自身の手を見つめた。トビは先程、「デイダラに協力する」と宣言しようとしたのだ。―――協力、響きは良いが、何かが引っかかった。 そう、『協力』という名の頼り………。 この期に及んで、また頼ろうというのか!?自分は考えも出さずして、助かろうというのか!? 自分は、何もできないのか…?いや、何もできないんじゃなくて、しようとしなかったんじゃないのか………。 「……………」 デイダラの背中が大きく見える。いつも怒らせてばかりいるデイダラが、一生懸命、先輩としての誇りを掲げている。 ―――この二つの手で、何かできることはないのか…? 「トビ?」 デイダラの背後で、動く気配がした。今まで怯えていたトビが、背中合わせで佇んでいる。 「デイダラさん、オレもやります!」 「―――!!」 トビは、目の前の敵に向かって構えた。仮面の奥から、鋭い眼光を解き放つ。 「デイダラさんっ!後ろはお任せします!!」 「トビ………」 後ろ―――背中の敵は相手に任せ、自分は目の前の敵に集中する。背後で戦う相棒を守ることにも繋がるこの戦法は、簡単なようでとても難しい。見えない信頼の絆が試されるのである。 「うんっ!そっちも任せたぜ!!」 デイダラも、トビの本気に同意した。二人が構えると、いよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。 トビの甘い匂いに連れられてやって来た数万〜数百万という小さな群集―――アリに挑むデイダラ・トビコンビだった。 ―――しかし、 「このっ、このっ、死ねっ!」 地面に這いつくばるアリどもを、これでもかと踏み潰しにかかるトビ。アリを潰す楽しさとは裏腹に、そう簡単に死なない生命のしぶとさに苛立ちさえ覚えてくる。 「お〜い、トビ…。オイラのところに来てるぞー」 「―――はぁっ!?んなもん、自分で何とかしてくださいよ!」 「テメー、オイラの後ろは任せてっつったの、どこのどいつだーっ!?」 もちろん、大技をかますわけではなく、ただ足で踏み潰しているだけの重労働。敵が動き回るアリなだけに、随分と効率の悪い攻撃手段。トビの敵は、すでにデイダラを巻き込んでいた。 「おまえに、背後なんか任せるんじゃなかった―――!」 デイダラの叫びと同時に、辺りに大きな爆発が起こった。瞬時にして、地面が砕け散る。たくさんのアリどもが吹っ飛んだ。 「ヤッター!」 それを見て、トビが喜んだ。風と共に、黒い斑点が浮かび立つ。 「………」 デイダラは、腑に落ちなかった。もったいぶらずに、最初から爆弾を使えば良かったのだ。 「フフッ、ちょろいもんですね。ま、所詮、アリですからね…。大量ぶっても、アリはアリ。オレたち人間サマにたてつこうなんざ、この星が滅亡するまで無理な話ですよ!」 「―――その大量のアリにビビってたのは、どこのどいつだよ…」 形勢逆転。アリに勝利したトビは、有頂天に浸っていた。反面、特に何もしていない後輩に、デイダラは怒りと情けなさを感じていた。 「デイダラ先輩が、最初から爆弾を使えば良かったんですよ」 何事もなかったかのような素振りを見せ付けるトビは、ついにデイダラの堪忍袋に触れてしまった。 「………そうだな」 デイダラの瞳が、トビを捉える。 「…って、オレが思ってたことを、まるで、オレに非があるみたいに言ってんじゃねェぞ、う―――ん!!」 「うわあぁぁぁっ!!」 デイダラの一発に、トビの悲鳴がこだました。 うっかり者でちゃっかり者の後輩は、先輩を頼り利用しつつ、アリのようにしぶとく生きている。 |
〜ひっそりと後書き〜 読んでお察しのとおり、トビの正体が黒幕と分かる前の人格です。まだ部下として純粋だった頃ですよ(笑) デイダラを引き立てるためには、トビの性格の抑制と妥協が必要…。トビは、もっと強い子です。 それにしても、トビは、何をしたんだ…? (2007年度作品) |